Kyrie(Litaniae de venerabili altaris Sacramento)


Kyrie, eleison. Christe, eleison. Kyrie, eleison.
 主よ、憐れみたまえ。キリストよ、憐れみたまえ。主よ、憐れみたまえ。

 おなじみのキリエ。カトリックでは長い間(そして今でも正式には)、ラテン語が公用語であるのに、ここの部分だけは、何故だかギリシァ語である。大昔、ギリシァ語が権威を持っていた時代の伝統が、痕跡的に引き継がれたものが、このキリエ、ということらしい。

 この曲の中心は、"miserere nobis"(我らを憐れみたまえ)というラテン語の文句であるが、古代のギリシァ語典礼では、"Kyrie eleison"が、同じような感じで使われていたのだろう。


Christe, audi nos.
  キリストよ、我ら(の祈り)を聞きたまえ。
Christe, exaudi nos.
 キリストよ、我ら(の祈り)を聞き入れたまえ。

意味品詞変化形辞書掲載形
Christeキリストよ名詞2男単呼Christus
audi聞きたまえ動詞42単命audio
nos我らを代名詞1複対nos
exaudi聞き入れたまえ動詞42単命exaudio

 直訳では、「我らを聞きたまえ」「我らを聞き入れたまえ」になるが、それだと分りづらいので、「我ら(の祈り)」と補足している。

 audiとexaudiの違い。どちらも「聞きたまえ」という意味だが、audiには、特別なニュアンスがなく、単に「聞きたまえ」、exaudiは、ハッキリ聞くとか、聞いて理解する、とかそういうニュアンスが含まれる。ここでは「聞き入れたまえ」と訳す。


Pater de coelis Deus, miserere nobis.
 天にまします神なる父よ、我らを憐れみたまえ。

 
意味品詞変化形辞書掲載形
pater父よ名詞3男単呼pater
de〜にまします前置詞  
coelis名詞2中複奪coelum
deus神なる名詞2男単呼deus
miserere憐れみたまえ動詞22単命misereor
nobis我らを代名詞1複奪nos

 ここでいう「神なる父」とは、"fiat lux!"(光あれ)と言って、この世を作った、創造主としての神のこと。

 deは、細かな意味がある前置詞で、辞書的な訳では、なかなかしっくりいかない。ここでは取り敢えず、上のように訳しておく。

 "miserere nobis"「我らを憐れみたまえ」は、この曲での最重要フレーズ。本来、動詞"misereor"は、属格を支配するので、文法書の規則通りなら"miserere nostri"となる筈だし、実際そうなっている詩も存在する。何故、"miserere nobis"なのかは、結局よく分らない。このフレーズは大量に出現するので、以降、語釈からは省く。


Fili Redemptor mundi Deus, miserere nobis.
 世の贖(あがな)い主、神なる子よ、我らを憐れみたまえ。

意味品詞変化形辞書掲載形
fili子よ名詞2男単呼filius
redemptor贖い主名詞2男単呼redemptor
mundi 世の名詞2男単属mundus
deus神なる名詞2男単呼deus

 「神なる父」に対して「神なる子」。「世の贖い主」と評されている「神なる子」とは、イエス・キリストのこと。

 「贖い主」とは難しいことばだが、要するに、罪をつぐなってくれる人のこと。アダムとイブが神との約束を破って「善悪の知識の木」を食べて以来の人類の罪を、キリスト自身が十字架にかかることにより、つぐなってくれた。そのことを評して、「世の贖い主」といっている。


Spiritus sancte Deus, miserere nobis.
 神なる聖霊よ、我らを憐れみたまえ。

意味品詞変化形辞書掲載形
spiritus霊よ名詞4男単呼spiritus
sancte聖なる名詞2男単呼sanctus
deus神なる名詞2男単呼deus

 当初、"spiritus"単独で「聖霊」と訳していたが、"sanctus spiritus"をセットで「聖霊」と、改める。

 それにしても、ミサ曲(には限らないが)でよく出てくる「聖霊」とは、一体、何なんだろうか? 色んな書籍やHPを見たが、いまだによく分からない。

 ヘブライ語の原文では「ルーアハ」と呼ばれ、「風」とか「息」とかそんな意味らしい。この「息」を通じて、マリアはイエスを身ごもったり、その他、神から人間や世界に諸々の働きかけがなされているらしい。


Sancta Trinitas, unus Deus, miserere nobis.
 聖なる三位、唯一の神よ、我らを憐れみたまえ。

意味品詞変化形辞書掲載形
sancta聖なる形容詞1女単呼sanctus
trinitas三位名詞1女単呼trinitas
unus唯一の形容詞2男単呼unus
deus名詞2男単呼deus

 さて、これまでをまとめると、以下の如し。

 (1) 天にまします神なる父よ、我らを憐れみたまえ。
 (2) 世の購い主、神なる子よ、我らを憐れみたまえ。
 (3) 神なる聖霊よ、我らを憐れみたまえ。
 (4) 聖なる三位、唯一の神よ、我らを憐れみたまえ。

 (1)〜(3)の3行では、「神なる父」「神なる子」「神なる聖霊」と、3つの神が挙げられているのに、(4)では、「唯一の神」となっている。何か矛盾してないか?

 実は矛盾していない。というのも、カトリックには、「三位一体」の教義があるからである。

 確かに「神」そのものは、唯一無二の存在である(unus Deus)。ただ神は、「父」「子」「聖霊」という、3つの側面(「位格」という)を持っている、というだけのことである。言い換えれば、三つの位格(trinitas)がそれぞれ関連しあって、一体の「神」を構成しているのである。これが、「三位一体」の教義である。

 (1)〜(3)で、長々と三つの位格を列挙した上で、(4)において「聖なる三位、唯一の神」と統合するところが、この詩のミソなのである。



まとめ

Kyrie, eleison. Christe, eleison. Kyrie, eleison.
 主よ、憐れみたまえ。キリストよ、憐れみたまえ。主よ、憐れみたまえ。

Christe, audi nos. Christe, exaudi nos.
 キリストよ、我らの祈りを聞きたまえ。キリストよ、我らの祈りを聞き入れたまえ。

Pater de coelis Deus, miserere nobis.
 天にまします神なる父よ、我らを憐れみたまえ。
Fili Redemptor mundi Deus, miserere nobis.
 世の贖い主、神なる子よ、我らを憐れみたまえ。
Spiritus sancte Deus, miserere nobis.
 神なる聖霊よ、我らを憐れみたまえ。
Sancta Trinitas, unus Deus, miserere nobis.
 聖なる三位、唯一の神よ、我らを憐れみたまえ。



 

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