Kyrie, eleison. Christe, eleison. Kyrie, eleison.
主よ、憐れみたまえ。キリストよ、憐れみたまえ。主よ、憐れみたまえ。
この曲の中心は、"miserere nobis"(我らを憐れみたまえ)というラテン語の文句であるが、古代のギリシァ語典礼では、"Kyrie eleison"が、同じような感じで使われていたのだろう。
Christe, audi nos.
キリストよ、我ら(の祈り)を聞きたまえ。
Christe, exaudi nos.
キリストよ、我ら(の祈り)を聞き入れたまえ。
語 | 意味 | 品詞 | 変化形 | 辞書掲載形 |
Christe | キリストよ | 名詞2 | 男単呼 | Christus |
audi | 聞きたまえ | 動詞4 | 2単命 | audio |
nos | 我らを | 代名詞 | 1複対 | nos |
exaudi | 聞き入れたまえ | 動詞4 | 2単命 | exaudio |
直訳では、「我らを聞きたまえ」「我らを聞き入れたまえ」になるが、それだと分りづらいので、「我ら(の祈り)」と補足している。
audiとexaudiの違い。どちらも「聞きたまえ」という意味だが、audiには、特別なニュアンスがなく、単に「聞きたまえ」、exaudiは、ハッキリ聞くとか、聞いて理解する、とかそういうニュアンスが含まれる。ここでは「聞き入れたまえ」と訳す。
Pater de coelis Deus, miserere nobis.
天にまします神なる父よ、我らを憐れみたまえ。
語 | 意味 | 品詞 | 変化形 | 辞書掲載形 |
pater | 父よ | 名詞3 | 男単呼 | pater |
de | 〜にまします | 前置詞 | ||
coelis | 天 | 名詞2 | 中複奪 | coelum |
deus | 神なる | 名詞2 | 男単呼 | deus |
miserere | 憐れみたまえ | 動詞2 | 2単命 | misereor |
nobis | 我らを | 代名詞 | 1複奪 | nos |
ここでいう「神なる父」とは、"fiat lux!"(光あれ)と言って、この世を作った、創造主としての神のこと。
deは、細かな意味がある前置詞で、辞書的な訳では、なかなかしっくりいかない。ここでは取り敢えず、上のように訳しておく。
"miserere nobis"「我らを憐れみたまえ」は、この曲での最重要フレーズ。本来、動詞"misereor"は、属格を支配するので、文法書の規則通りなら"miserere nostri"となる筈だし、実際そうなっている詩も存在する。何故、"miserere nobis"なのかは、結局よく分らない。このフレーズは大量に出現するので、以降、語釈からは省く。
Fili Redemptor mundi Deus, miserere nobis.
世の贖(あがな)い主、神なる子よ、我らを憐れみたまえ。
語 | 意味 | 品詞 | 変化形 | 辞書掲載形 |
fili | 子よ | 名詞2 | 男単呼 | filius |
redemptor | 贖い主 | 名詞2 | 男単呼 | redemptor |
mundi | 世の | 名詞2 | 男単属 | mundus |
deus | 神なる | 名詞2 | 男単呼 | deus |
「神なる父」に対して「神なる子」。「世の贖い主」と評されている「神なる子」とは、イエス・キリストのこと。
「贖い主」とは難しいことばだが、要するに、罪をつぐなってくれる人のこと。アダムとイブが神との約束を破って「善悪の知識の木」を食べて以来の人類の罪を、キリスト自身が十字架にかかることにより、つぐなってくれた。そのことを評して、「世の贖い主」といっている。
Spiritus sancte Deus, miserere nobis.
神なる聖霊よ、我らを憐れみたまえ。
語 | 意味 | 品詞 | 変化形 | 辞書掲載形 |
spiritus | 霊よ | 名詞4 | 男単呼 | spiritus |
sancte | 聖なる | 名詞2 | 男単呼 | sanctus |
deus | 神なる | 名詞2 | 男単呼 | deus |
当初、"spiritus"単独で「聖霊」と訳していたが、"sanctus spiritus"をセットで「聖霊」と、改める。
それにしても、ミサ曲(には限らないが)でよく出てくる「聖霊」とは、一体、何なんだろうか? 色んな書籍やHPを見たが、いまだによく分からない。
ヘブライ語の原文では「ルーアハ」と呼ばれ、「風」とか「息」とかそんな意味らしい。この「息」を通じて、マリアはイエスを身ごもったり、その他、神から人間や世界に諸々の働きかけがなされているらしい。
Sancta Trinitas, unus Deus, miserere nobis.
聖なる三位、唯一の神よ、我らを憐れみたまえ。
語 | 意味 | 品詞 | 変化形 | 辞書掲載形 |
sancta | 聖なる | 形容詞1 | 女単呼 | sanctus |
trinitas | 三位 | 名詞1 | 女単呼 | trinitas |
unus | 唯一の | 形容詞2 | 男単呼 | unus |
deus | 神 | 名詞2 | 男単呼 | deus |
さて、これまでをまとめると、以下の如し。
(1) 天にまします神なる父よ、我らを憐れみたまえ。
(2) 世の購い主、神なる子よ、我らを憐れみたまえ。
(3) 神なる聖霊よ、我らを憐れみたまえ。
(4) 聖なる三位、唯一の神よ、我らを憐れみたまえ。
(1)〜(3)の3行では、「神なる父」「神なる子」「神なる聖霊」と、3つの神が挙げられているのに、(4)では、「唯一の神」となっている。何か矛盾してないか?
実は矛盾していない。というのも、カトリックには、「三位一体」の教義があるからである。
確かに「神」そのものは、唯一無二の存在である(unus Deus)。ただ神は、「父」「子」「聖霊」という、3つの側面(「位格」という)を持っている、というだけのことである。言い換えれば、三つの位格(trinitas)がそれぞれ関連しあって、一体の「神」を構成しているのである。これが、「三位一体」の教義である。
(1)〜(3)で、長々と三つの位格を列挙した上で、(4)において「聖なる三位、唯一の神」と統合するところが、この詩のミソなのである。
まとめ
Kyrie, eleison. Christe, eleison. Kyrie, eleison.
主よ、憐れみたまえ。キリストよ、憐れみたまえ。主よ、憐れみたまえ。
Christe, audi nos. Christe, exaudi nos.
キリストよ、我らの祈りを聞きたまえ。キリストよ、我らの祈りを聞き入れたまえ。
Pater de coelis Deus, miserere nobis.
天にまします神なる父よ、我らを憐れみたまえ。
Fili Redemptor mundi Deus, miserere nobis.
世の贖い主、神なる子よ、我らを憐れみたまえ。
Spiritus sancte Deus, miserere nobis.
神なる聖霊よ、我らを憐れみたまえ。
Sancta Trinitas, unus Deus, miserere nobis.
聖なる三位、唯一の神よ、我らを憐れみたまえ。